EPISODE3

<今回の脚本・演出>
脚本:橋部 敦子
演出:平野 眞
自殺を止める男止めない男
職員室のデスクに積み上げられていた本を抱え、権が歴史準備室に入ると、珠子がカエサルについての本を読んでいる。その一節を読み上げる。−−−指導者に求められる資質は次の5つである。知性・説得力・肉体上の耐久力・自己制御の能力・持続する意志。カエサルだけがこのすべてを持っていた−−−これについてどう思うか珠子に聞かれ、権は自分へのあてつけだと感じた。権は、そんな珠子に構っている暇はない。愛する真理子のいる歯医者へ予約を入れてあるのだ。珠子に冷やかされつつ、送り出された。しかし権は、珠子が部屋を先に出た後、珠子の読んでいたページを改めて読み、自分に問い掛けてみた。

歯医者へ行くと、権が最後の患者だったようだ。スタッフを先に帰し、一人で後片付けをしている真理子。都合よく2人きりになり、権は思い切って真理子を食事に誘う。が、あえなく断られてしまった。駅へ向かう途中、もし断られっぱなしではなく、気のきいた言葉でも出れば・・・と、真理子を抱きしめている妄想に入っていると、本当に女性が肩にもたれかかっている。我に返ると、見ず知らずの女性が気絶してしまっている。気が動転する権。救急車を呼ばなければならないが、周囲は先ほどの状況を見て、権がその女性の恋人だと勘違いしている。女性は苦しそうだが、権は何もしてやることも出来ないまま時間が過ぎ、周囲もそんな権の姿にやきもきし始めた頃、偶然にも真理子の恋人・徹が現れる。権は、その男性が、ある夜真理子とキスをしていた男である事に気がついていない。医者である徹は、心臓が止まっていた女性を適切に処置し、蘇生に成功する。徹は、その後患者と共に救急車に乗って病院へ行ったが、権も周囲が恋人と思い込んでいる状況で、否定することが出来ず同行してしまう。運び込まれた病院で、徹は権が真理子の婚約者であることに気づく。権は、乗った救急車の中で気分を悪くして病院のソファでぐったり。肉体上の耐久力。どうも彼にはないらしい。

翌日、職員室に鬼頭への来客があった。鬼頭の親友の親友である外国人教師が、日本の授業風景を見てみたいのだと言う。権は、外国人と対等に英語で会話する鬼頭を見て、すごいと思いながらも、英語教師なのだから当然とも思っていた。
家に帰る途中、権は外国人に英語で話しかけられた。しかし答えられない。そのまま避けて帰ろうとすると、徹と遭遇する。すると、徹はその外国人と英語で話している。医者なのになぜ英語を話す、と思いながら、自分には知性はない、と自覚するのだった。

権は、家に帰って押し入れを漁った。昔、3日坊主でしまい込んでいた英会話の教材を探しているのだ。その背後には、なぜか珠子がいる。英会話の練習をしようとしている権に、その理由を真理子との新婚旅行でいいところを見せたいからでは?と問う珠子。実は、その指摘は図星だ。
権と珠子が、一緒にいる頃、真理子は徹と食事をしていた。徹は、前日の一件を真理子に話した。真理子は、自分の恋人と婚約者(カモフラージュではあるが)が知り合ってしまう偶然に驚いてはいたが、それを楽しんでいるようでもある。徹は、真理子が権のような人物と結婚することに疑問を感じたが、真理子は「結婚相手に情が移ると嫌」と言った。
一方、珠子は、同級生から好きな人はいるか?と聞かれたことなどを話したが、権は相手にせず、そっけない返事ばかりしていた。珠子は怒って帰ろうとすると、なぜか権は引き止めるように、どんな人が好きなのか知りたい、と口走った。すると、「勇気のある人」。それだけを言って帰って行った。

ある休日の朝、英会話のCDが音飛びする中、権の家の電話が鳴った。真理子が今日自宅へ行くとのことだった。喜んで真理子を出迎えると、母と一緒にやってきた。拍子抜けしながらも、「結婚までの歩み」のノートを真理子に見せる。真理子が読んでいる間に真理子の母は、部屋のあちこちを見て回っていた。真理子は、権の結婚計画に賛同してくれた。しかし、新婚旅行の行き先について権が聞くと、真理子は仕事が休めないので行けない、とあしらあれてしまった。新婚旅行はなくなったので、英会話の教材は、また押し入れの中に戻っていくこととなった。持続する意志と言うのも、彼にはないらしい。

ある日、権が教室に入ると、聡司が教壇でクラス中に呼びかけている。聡司が持っていた5万円がなくなったのだと言う。権は、教頭に相談するため、職員室へ行こうとするが、生徒からは解決できずに逃げたと言われ、珠子からも教頭に相談しに行くのは、責任逃れの為ではないか、と責められる。騒動は、鬼頭が仲裁に入り解決させ、生徒や教師達から感謝される。一方、権は、無力であったことで、信頼をすっかり失ってしまった。
そんな、周囲の様子から、権は説得力の無さや自己制御過剰な自分に気落ちし、校舎の屋上でため息を吐いていた。すると、むこうから「北斗ーっ!」と叫んでいる生徒がいる。権のクラスの京子だ。権が近くに行ってみると、京子は自殺すると言う。北斗がいなければ生きていてもしょうがないと言って、権の制止も聞かない。次第に、他の生徒や教師達も集まってきた。その中に、珠子と聡司もいたが、京子の話に思い当たるところがあった。権の家に真理子が訪れた日、珠子は聡司とデートに出かけたのだが、その時に京子と恋人の北斗がケンカしているのを目撃していたのだ。
珠子らの話が聞こえた権は、北斗を探しに北斗が在籍する丹下高校に向かった。だが、その姿を聡司の5万円の件と同じように逃げたのではないか、と生徒らに思われてしまう。
丹下高校には北斗の姿はない。その後、ゲームセンターに向かった権は、ようやく北斗を見つけ出すことが出来た。北斗は、なかなか権を相手にしなかったが、最終的には権と共に走って天地高校に来てくれた。が、時すでに遅く、京子は鬼頭の説得で、自殺をあきらめ、2人の周りには生徒や教師達の輪が出来ていた。権は、そんな状況を安堵の表情で見守っていた。
周囲は気がついていなかったが、権と北斗が現れたのを珠子だけが気がついていた。去っていく北斗に事の次第を聞いた。権は、北斗に来てもらうために、土下座までしたのだと言う。権は何も言わないが、珠子はそんな権のささやかな勇気からの行動を知り、一人微笑んでいた。

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