EPISODE1

<今回の脚本・演出>
脚本:橋部 敦子
演出:星 護

出会いは援助交際
鍋島 権は、恥ずかしがり屋で内気な高校教師。
通勤電車では、痴漢と間違われないように両手をあげたり、スーパーで、試食品を断りきれずに買ってしまう。
学校では、生徒が投げた空缶がごみ箱に入らず床に落ちても、注意もおろか、それを拾って拾うこともない。熱血教師で生徒や同僚教師からの信頼も厚い鬼頭とは対照的だ。

彼は、歯医者によく行く。歯が悪いというのもあるが、彼の憧れの人である歯科医・真理子に会いたいからだ。でも、一方的に思いを寄せているだけ。所詮、彼にとっては高嶺の花なのだ。
ある日、教頭の勧めで、見合いをすることになった。しかし、真理子のことを思うと気が進まない。でも、断れない。ところが、見合い写真を見て権は驚く。奇跡が起きた。権は真理子と見合いをすることになったのだ。
それも、何度かのデートを重ねた結果、真理子は権との結婚を承諾。
嬉しさのあまり、同僚教師の鬼頭から酒に誘われた権は、飲めない酒を飲み、すっかり酔いつぶれてしまう。

翌朝目覚めた権は、いつもと変わらぬように、トイレに行き、洗濯をし、冷蔵庫から牛乳を取り出して牛乳を飲む。しかし、横から空いたグラスが差し出されている。振り返ると、見知らぬ女子高生がグラスを持って立っている。彼女は、権から2万円もらうと帰ってしまった。

権は自分が援助交際をしてしまったのではないかと焦る。このままだと、結婚の話も破談になってしまう。彼の頭の中はそんな妄想でいっぱいだ。
−−−賽は投げられた。彼の中で、カエサルのこの言葉が浮かんできた。話を早く進めないと。彼は、真理子の両親に会いに行く。
幸いなことに、両親は結婚を快諾してくれた。
その席で、真理子の妹を紹介される。こんな事があっていいのだろうか。彼の前に現れた真理子の妹は、今朝の女子高生そっくりだ。でも、話し振りなどは違うようだ。どうも、人違いらしい。安心したのもつかの間、帰り際、彼女は権にささやく「お姉ちゃんには内緒にしてあげる」。

今朝の女子高生は、真理子の妹・紺野珠子だったのだ。
絶望に打ちひしがれる権。それに更に追い討ちをかける事が起きる。珠子が権のクラスに転校してきたのだ。授業中も、援助交際した自分を生徒達がなじったり、警察に連行される妄想に襲われる。

何とか妄想から逃れた権は、歴史準備室に逃げるように戻って来た。珠子も彼を追って入ってきた。慌てふためきながら珠子に必死に弁解しながらも、そんな自分の生き方を話した。人に嫌われずに済めばいい、無難に生きていければいい。そんな自分を馬鹿にするかもしれないが、それが自分の出した結論なのだ、と。
珠子は、権の部屋にもあったカエサルの胸像を歴史準備室の中に見つけた。「自分に持っていないものがあるから好きなんでしょ」。とっさに否定する権。珠子は、カエサルが好きだと言って部屋を出ていった。

否定したものの、権は本当はカエサルが大好きだ。でも、カエサルのようになろうとは思わない。カエサルと自分とでは次元が違う、そう思っているのだ。

終業後、買い物をしにスーパーに立ち寄った権。なぜか彼の前には、またもや珠子が現われ、権と夕飯を食べたいと言う。断りきれなかったのか、権はそのまま買い物を続けていると、前を歩いていた客が卵の山を崩して、いくつかの卵パックが割れてしまった。珠子が携帯のストラップを回していたせいで、店員に疑われてしまう。権は、本当は珠子ではないと証言したかったが、その客にあとで殴られやしないかと躊躇してしまう。珠子は、自分がやったのではないと証言するように卵を倒した客に言う。結局、その客は証言しなかったが、店の外で珠子はすごまれてしまう。その光景を見ていた権は、珠子に忠告する。そんな権に、自分納得してやったことだから構わない、と珠子は言った。そして、去り際に思い出したように「援助交際なんてしていません。あの2万円は、建て替えておいたタクシー代だから」。権は帰っていく珠子の後ろ姿に、大好きなカエサルの姿を重ねていた。

夜、紺野家の前に停められている車の中で、恋人同士と思しき2人がキスをしている。あろうことか女性の方は権の婚約者である真理子だ。珠子は、姉の婚約は、カモフラージュのものであることを知っていた。権との結婚の意志を姉に確認する珠子。一方、真理子は、珠子が外泊した日(権と出会った夜)のことを聞く。忘れたと言いながら珠子の脳裏に、権と出会った場所にあった、男女がダンスをしているオブジェがよぎる。そのオブジェは、あの夜以来、女性の方が欠けてしまっている。

姉妹の間で会話が交わされている頃、権は珠子の言葉を思い出す。本当はカエサルが大好きだ。しかし、自分とは次元が違う。さらに、自分に言い聞かせてしまうのだった。

今日も、生徒が空缶を投げ捨てた。権は、ごみ箱に入らず床に落ちた缶を手に取る。声をかけようとするが、かけられないまま、始業のチャイムが鳴った。


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